大壽堂鼎 第三章 竹島紛争 310

大壽堂鼎 『領土帰属の国際法』 東信堂(1998)

第三章 竹島紛争

三 国際法的評価

(一)

 韓国が竹島をその固有の領土だとする主張の根拠は、李朝時代の文献の中に見出される干山島、三峯島についての言及と、安竜福に関する記述とである。このほか、韓国は一九〇六年の鬱陵郡守沈興沢の政府に対する報告の中に、「本郡に属する独島」という文言があるのを援用し、新羅時代から一九〇五年の日本による領土編入の時まで、一貫して竹島はその領土であったという。しかし、前節ですでに検討したように、干山島と三峯島に関する記事はあまりにも不明確で、それが現在の竹島であることは証明されないし、安竜福一件も疑間の余地が大きく、同人の行為を重視する歴史学者中教授すら、その記録には多少の誇張もあるようだとされている。*07
 さらに、独島の名が文献にあらわれるのは、沈郡守の報告がはじめてであるが、その報告も、島根県の神田部長の訪聞を受けて、竹島に関する事実を告げられたことに触発されて書かれたものである。いったいに、韓国の官憲が竹島に支配権を及ぽしたことがないのはもちろん、韓人が同島を経営した事実もない。韓国では竹島に関する知識すら、終始明確ではなかった。鬱陵島が四五〇年もの間空島とされていたことから当然といえる。ただ、空島政策変更後、欝陵島を根拠地として、漁民が竹島に行ったことは考えられる。しかし、干山島の名称と独島のそれとの間に全く関連がないことからわかるように、かりに昔の干山島が竹島であったとしても、韓人の竹島に関する知見は長時間にわたる断絶があった。このような不明確で疑問の余地の多い事実にもとづいたタイトルが、他国の実効的な占有をも排除するような強い効力を認められるとは考えられない。

 これに対して、日本の援用している歴史的事実ははるかに明瞭である。日本人が竹島を知ったのは、一四、五世紀室町時代の頃からと推定されるが、一七世紀には伯者の町人が幕府から許可を得て、八○年間も欝陵島を経営し、その間、竹島をも経営していたことを示す具体的な記録がある。欝陵島放棄後は竹島の経営も積極的でなくなったと思われるが、竹島については明確な知見があり、その地勢を伝えるきわめて正確な地図がある。そして、竹島が日本領として認識されていたことを示す記録や地図がある。

 日本政府は、開国以前の日本には国際法の適用はないので、当時にあっては、実際に日本で日本の領土と考え、日本の領土として取り扱い、他国がそれを争わなけれぱ、それで領有するには十分であった、といっている。このことは正しい。しかし、現在他の国がこれを争い、自国こそ永年その領土として考えてきたと主張している以上は、国際法規に判定の基準を求めるはかないだろうと思う。もっともその際には、ある行為の効果はそれがなされた時の法によって決定される、という原則が適用されることに注意しなけれぱならない。*08
 さて、歴史的事実に関する日本政府の主張に弱点があるとすれぱ、当時、幕府が領有の意思を明確に表示しておらず、竹島に対する国家権能の表示がそれほどはっきりしていないことであろう。しかし、幕府の領有の意思は、前節で述べたように、鎖国後も竹島への渡航を禁止していないことから推定しうるし、この推定は、その後日本で、竹島を日本領と認識していた事実によって補強される。また、一七、八世紀に援用された先占法規によると、領土権の取得に必要な占有は、土地の使用や定住という物理的占有の意味に重点がおかれていたのであり、国家機関が具体的に支配権を行使していなくても、国民が土地を実際に使用し、経営し、さらに定住しておれぱ足りた。実効的占有の重点が、国家の支配権の行使という社会的占有へはっきり転換したのは、一九世紀においてである。*09
 竹島は日本人により使用し、経営されていた。定住はされなかったが、竹島のような定住に適さない岩島にはその必要はなかった。かりに竹島を発見したのは韓国人が先だとしても、単なる発見は、その後における継続した占有にもとづく権原にうち勝つだけの優越した効力は認められない。*10

 かくして、竹鳥は一七世紀当時、国際法の基準からいっても日本領として認められただろうと考えられる。そして、この後日本が竹島を放棄した事実はなく、韓国の側に積極的な占有行為もなかった。このように歴史的観点からして、少なくとも韓国の援用している諸事実と比較した場合、日本の主張が相対的に有力であることは疑いない。



 *07 申前掲論文。
 *08
 *09 拙稿「国際法上の先占について1その歴史的研究1」、『法学論叢』六一巻二号、八二-八六頁。
 *10 フーバーは、発見を一応未成熟の権原として認めるが、この権原は、実効的先占が伴わなけれぱまもなく失効すると考える


  • 最終更新:2010-03-07 08:54:46

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